top of page

ハリー・ベルトイアは音響と椅子を完璧に制作します。

更新日:2024年6月24日

 私には長年愛聴しているCDがあります。その作者の名はハリー・ベルトイア(Harry Bertoia)。彼の奏でるものは一般的な音楽というよりは音響彫刻から生み出される素晴らしい音の交響曲。私は自身の作品制作の時や、心を静かに沈殿させたい時などに必ずといっていいほどこのCDのお世話になっています。

 彼は鉄などの金属を素材にして彼独自の音の発生装置を作ることから仕事を始めますが、それは楽器というよりまさしく抽象的な金属彫刻という佇まいのもので、何よりもそこから発せられる音の波長が金属同士で共鳴し増幅されて何とも神秘的な音響空間を生み出しています。まずは彼のライナー・ノーツからその制作意図を見れば彼の世界が即座に理解できるでしょう。


『 つまりすべての物はそれぞれ自身の音を持っているということだ。私はだから、音階とか調とかじゃなくて、音そのものの持っている多くの関係を探索していきたいんだ。ケージとかヴァーレーズのレコードも少しだが聴いてみた。彼らが何をやったかは分かった気がする…。しかし私の基本的な狙いは違う。その物自体に内包されているエナジーを解放してやるということ。もしそれが充分なものであれば、それは(響き)続けるだろうし、そうでないなら消え入ってしまうだろう…。』


 まさしくこの考えを具現化したような音響の世界が(それが実際の音でなくCDであるのが歯痒いところですが)展開されていきます。ここにあるのは音楽という概念がまさしく発生するその瞬間に立ち会っているような、原初的で実直な解放感のようなものをいつも感応することができます。(これらの仕事は以下のYouTube等にあります。)


 ところがさらに驚くべきことに、彼にはもう一つの顔があります。それはデザイナーとしてもとびきりの感性と実績を持っているという事実です。そして何より信じられないのは彼のデザインは完璧なまでの思想と完成度を誇っているその作品にあります。(デザイナーとしての作品はこちらのYouTubeから。)


 ここにある彼のデザインワークはアーティスト独特の独善的な空気感などは微塵もありませんから、デザイナーとしての責任と気概に溢れた仕事ぶりが見て取れます。こうした精緻な仕事はそれだけでも信じられないのですが、このような違う分野を一人の人間が貫徹している姿を目にすると、驚きを超えた憧れのようなものさえ私は持ってしまいます。

 デザインとアート、近いようで遠い世界は、そのそれぞれの分野を深めていけばいくほどお互いの距離感は隔たっていくのかも知れなくて、なおさら彼の中にある世界に対峙する姿勢の潔さに凄みすら感じてしまいます。その決然とした両者からの長大な振幅の距離感によって強固なダイナミックさが生み出されていることは間違いがないはずで、一人の人間の中でまさにこのような濃密な二つの世界が同時に成立していることは、外から見ていてこれほどの豊かな人生もないように思えてしまうのです。

 最近の私は彼の音楽を聴くたびにいつも壮大な夢のような風景が自然と湧き上がってくることをもう致し方のない啓示のようにさえ感じているのでした。



 
 
 

Комментарии


私にメッセージ / Communicate to me

​名 / Your name

あなたのメールアドレス 

Your mail address

あなたのメッセージを入力 / Enter your message

bottom of page