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芸術は長く、人生は短し。

更新日:2024年6月24日

 昨夜テレビを見ていたら坂本龍一の訃報が報じられました。その時先日なくなった大江健三郎の追悼番組の録画を見ていた直後でしたから、その重層的喪失感は思う以上に深いものになりました。特に坂本龍一とはどこかで並走していたような意識がずっとあったので、私の共振箱を揺らしてくれる波長の送信元が一つなくなったような寂しさを覚えます。

 彼の音楽は破壊を伴った革新的なものではなかったけれど、複数の表現様式を意識的にせめぎ合わすことでその力を揚力に変えて様式を突破していく力が魅力のアーティストでした。だから他のアーティストにありがちな一つのジャンルに埋没するような安定感を求めるわけではなく、そうしたものからできるだけ浮遊しようとするような姿勢が私の共感を呼んだのだと思います。しかしそんな彼独自のスタイルも、時間を経ればやはり様式化されてしまうようになってきて、最近はそうしたこととの孤独な戦いに挑んでいるような気配の仕事が垣間見えていました。そうした彼の直感力が多くのアイデアを生み、彼独自の音楽世界を作ってきたのでしょう。そして彼はピアニストとしては決して上手くはなかったけれど、作者自らの手で聴く者に作品を直接手渡そうとする姿勢は美術家の姿勢と共通するものを感じます。そのあたりの彼の感性は信頼に値するものでした。

 報道によると彼は死の直前まで苦しみながらも創作活動を続けていたようです。彼が残した「Ars longa vita brevis」(芸術は長く、人生は短し)という言葉に彼の無念さを感じます。彼の芸術に対してその死はあまりにも早過ぎたように思います。それを思うと私にはまだ残された時間があることを強烈に幸運だと感じて、これからの制作に手を緩めないでいくことを強く再認識させられたのです。


 
 
 

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